汗は体温調節を行うためのものですが、体温調節に必要な量以上に汗が出て、日常生活に困っている状態を多汗症と呼びます。
多汗症には、全身の発汗が増加する全身性多汗症と、体の一部分(特に手のひら、足底、ワキ)の発汗が増加する局所性多汗症があります。
特に原因のない原発性多汗症と、他の病気などが原因でおきる続発性多汗症があります。寝汗も全身性多汗症の一種です。
続発性の場合、高温の環境や重労働、また肥満も原因になります。その他、感染症や甲状腺の病気、リウマチや糖尿病、膠原病、妊娠や閉経、更年期障害、自律神経の障害、悪性腫瘍や内服薬(抗精神病薬、アスピリン、ステロイドなど)による影響などが考えられます。
手のひらや足底、ワキ、おでこや鼻の頭、胸の谷間などに起きやすいです。ほとんどが、緊張したり不安な時に汗をかく、精神性発汗によります。コーヒーやコーラなどのカフェイン、チョコレートが原因になることもあります。特に原因のないことが多いですが、先ほど挙げた場所以外で多汗がある場合や、左右非対称に汗をかく場合は、できもの(腫瘍)が隠れていたり、神経障害の可能性が考えられます。
原因によって以下のような症状が出ます。
感染症や膠原病、悪性腫瘍の場合は発熱することで、全身性に汗を生じます。甲状腺機能障害や内服薬によるものでは発熱は起こらず、全身性に汗を生じます。
・テスト用紙や書類が汗でふやける。
・手を握ると汗が滴りおちる。
・手足は湿っていて冷たく、紫色のこともある。
健康な若い方によくある症状です。
てのひらや足のうらは温熱の影響はなく、精神性発汗の場所です。テストや大事な会議など緊張するような状態になると、汗が増えます。ですので、寝ているときは汗は出ていません。
日本では20人に1人が悩んでいる病気です。ワキも精神的発汗の場所ですが、手足とは違って体温の影響を受けます。左右両方のワキに症状があり、手足の多汗もあることが多いです。
耳下腺の病気や耳下腺の手術後におきます。
コーヒーや紅茶、トマトジュースやレモンなどの酸っぱいもの、チョコレートや熱いスープなどを口に入れると、患側の耳の前に痛みや赤みとともに汗が出てきます。
問診と診察によります。発汗検査にて発汗量の測定が厳密には必要ですが、大学病院などの大きい施設で可能です。
局所多汗症の場合は、以下の項目でチェックを行います。
・最初に過剰な汗(ワキ、手など)が出たのは25歳以下である。
・左右同じようにワキ汗、手汗がでる。
・睡眠中は汗が止まっている。
・1週間に1回以上、多汗の症状がある。
・家族にも同じ症状の人がいる。
・汗のために日常生活で困っている。
局所多汗症の場合は、重症度の判定を行います。
1:発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない。
2:発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある。
3:発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある。
4:発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある。
3と4があてはまる場合は、重症に該当しますので、治療適応があると判断します。
2000年以前は、保険診療では手術しか治療法がありませんでした。塩化アルミニウムなどの外用治療はありましたが、治療効果がそれほど高くありませんでした。
2020年以降に新しい外用治療剤が発売になりました。
日本で初めて保険適用になった腋窩多汗症の外用剤です。交感神経からエクリン汗腺(汗を作る器官で、体温調節のために汗を出します。)に汗を出す指令が出て、汗が出てきますが、このお薬はその指令をブロックして、汗を抑えます。
有効成分であるグリコピロニウムトシル酸塩水和物が、神経から汗を出す指令をブロックし、ワキ汗を抑えます。
日本で初めて保険適用になった原発性手掌多汗症の外用剤です。てのひらの皮膚から吸収され、皮膚の下にある交感神経から出される、発汗をうながす物質をブロックすることで、てのひらの汗を抑えます。
A型ボツリヌス毒素の注射による治療です。重度の腋窩多汗症に対し保険適用があります。10−15カ所程度、皮内に注射します。効果がなくなった場合の再投与は16週以上あけないといけません。
抗コリン薬(プロ·バンサイン)は多汗症に対し唯一保険適応のある内服薬ですが、日本皮膚科学会のガイドラインでは、治療として考慮しても良いが、十分な根拠はないとされています。
多汗部位を水道水に浸し、直流電流を流す水道水イオントフォレーシスは掌蹠(手足)の多汗症に有効です。水中で発生させて水素イオンが汗の出口を小さくし、汗を抑えます。家庭用の機器もありますが、医療用機器の方が安定した電流が供給できます。保険適応の治療ですが、全ての医療機関で行われているわけではありませんので、医療機関への確認が必要です。
汗に関わる交感神経の神経節を切除または焼灼する、胸腔鏡下交感神経遮断術などがあります。主に、手掌多汗症に対して行われます。気胸や神経麻痺などの副作用のリスクがあること、代償性発汗(体の他の部位からの発汗が増加する)が起こる可能性があります。他の治療法で改善しない重症の場合に適応になります。
副作用の出現リスクはありますが、市販の汗拭きシートやロールオンタイプと同様で、使いやすく、保険適応の治療で、効果の高い外用剤が出ていますので、お悩みなら、一度医療機関でご相談ください。
この記事が皆さんにとって少しでも有益な情報となれば幸いです。